「リチャード、一緒に寝よ?」  

一日の激務を終え、深夜にも近い時間に自室に戻ったリチャードを出迎えてくれたのは、幼い容姿をしたままの友人だった。期待を隠し切れない微かに高揚した頬、輝く大きく瞳。リチャードが用意した白いレースとリボンが申し訳ない程度に使われたルームウェアを着込んだソフィが、ウェアと同じ色をしたクッションを胸に抱きしめたまま、自室の扉の傍にしゃがみ込んでいた。自室を警護する騎士が微かに困ったように苦笑する様子を見てみると、随分と前からその姿でいるようで触れたソフィの肩は冷え切っていた。
「どうしたんだい、ソフィ。きちんと客室にいないとだめじゃないか。僕は執務で遅くなると伝えてあっただろ?」
小さく細い体を自分のマントで包み込むように温めてやりながら、そっと大きな瞳を覗き込む。不思議そうに首を傾げたソフィは、次いで首をフルフルと横に振るとリチャードを見上げ返してきた。
「だって、リチャードとお話したかったの」
「でも、遅い時間だ。明日は一日休みを貰っているから、今日は用意した部屋でお休み。送っていくから」
 肩を優しく押すようにして、メイドに用意させた客室へソフィを促す。が、ソフィはリチャードの好意を拒むようにその場から頑なに動かない。
「いや、リチャードとまだお話したい」
 聞き分けの悪い子どもように、再び首を振る。唇は先程の柔らかな表情とは打って変わり、きゅっと結ばれていて彼女の意思の強さを物語る。
 しかし、リチャードとしても困ったもので眉を微かに寄せる。
リチャード、ソフィ共にそのような意味も意識もないとしても、深夜遅くに自室に女性を招きいれるのは悪い噂が立つかもしれない。今、この場にいる騎士を信頼していないわけではない。だが、こういうゴシップな話は誰もが興味を持ち、好むもの。それが、自国の王となると尚更で、リチャードとソフィの関係が男女のそれとは違うと知らないものが知れば瞬く間に噂は広がるだろう。後々にソフィに。その保護者であるアスベルに迷惑を掛ける事態になるかもしれない。
「アスベルは一緒にお話を聞いてくれて、一緒に寝てくれるよ。昼間はお仕事で大変だから、夜になると一緒にいてくれるの。毎日じゃないけどたまにだからいいよって。リチャードともたまにだから、今日はお話したい」
 あまりに純粋に男女の垣根を越えた友情を貫く友人達の日常を知り、軽く眩暈を覚えながらリチャードは苦笑する。仕方がない。保護者がそういう態度で日々接しているなら、ソフィの感覚はそれが当たり前で、ここで態々訂正するのも少し悔しい気がする。リチャード自身もソフィと話をしたいと思っているのだから。
 警護に当たっている騎士達には念の為に、後から口止めをしておこう。そう思いながらリチャードはソフィの肩を抱くと、自室の扉を開く。
「わかったよ、ソフィ。でも夜更かしは禁物だよ。明日になれば時間はたっぷりあるんだから」
 そうして大切な、大切な友人を招き入れた。